対面赤信号で「横断を開始した」被害者に対し5%の過失相殺をし、マイカー帰宅中の加害者の使用会社について運行供用者責任を否定した事例

東京地裁:平成25年3月14日判決(自保ジャ1901号1頁)

判決要旨

① 夜間、国道横断歩道を歩行横断中の39歳男子亡Aと居眠り運転の被告乗用車の衝突死亡事故につき、Aが信号表示赤の状態で「横断を開始した」のに対し、「本件事故の原因は、被告が、眠気を覚え前方注視が困難な状態に陥った際に直ちに運転を中止すべき自動車運転上の注意義務を怠ったことにある」が、Aにも、「信号機の表示する信号に従わずに横断歩道上を横断していた事情があり、これら双方の過失の内容、程度に加え、国道a号線の状況、事故の時間帯、その当時の事故現場の明るさ等をも考慮すると、損害賠償の額を定めるに当たり、5%の過失相殺をすることが相当である」と認定した。
② 引越運送業社員の被告のマイカーでの帰宅時の本件事故につき、「本件事故当時、被告は、業務との関連性なく、単に帰宅のために、その所有する被告車を運転していたにすぎないことを考慮すると、被告がごくまれに自己の判断ではあれ被告車を被告会社の業務に関連して使用したことがあったことなどを考慮しても、本件事故当時の被告による被告車の運行について、被告会社が運行利益及び運行支配を有していたということはできず、被告会社の運行の用に供されていたということはできない」として、勤務会社の運行供用者責任を否定した。

コメント

① 死亡事故につき過失が争われるという比較的多くあるケースです。死亡事故に関しては、被害者の供述が取れないために、過失が争点になりやすい構造となっています。今回のケースでも、被告は、原告の過失を40%と主張していました。証拠関係は不明ですが、裁判所が秒単位で事故発生時を特定していることや、その前後の信号の色を認定しているところをみると、おそらく刑事記録が十分に提出されたのではないかと推察できます。その結果、歩行者も四輪車も赤信号を無視又は看過していたと認定されています。5%という過失相殺率についてはコメントが難しいところですが、赤信号対赤信号の事案であることを考えると、比較的被害者に有利な認定となったのではないでしょうか。

② 会社からの帰宅時の事故について、会社の運行供用者性が否定され、会社は責任を負わないとされたものです。通勤中や帰宅時の事故については、原則として会社は責任を負いません(労災が通勤中や帰宅時の事故について労災適用を認めている点と大きく異なります)。本件では、原告は、会社がマイカー通勤を認めている、むしろ早朝出社深夜退社が可能になるようにマイカー通勤が必要な状態にした等と主張し、したがって会社も被告の車両の運行について運行支配をしている又は運行利益を上げているから運行供用者責任が認められるとの構成を採りましたが、裁判所は、むしろ被告は自分の便宜のためにマイカー通勤を選択したのであって原告の主張するような事実は認められないとしたうえで、運行供用者性を認めています。おそらく、本件では、運転者自身の賠償保険があったのだと思われますが、運転者自身が任意保険に加入していない場合には、会社の運行供用者責任や使用者責任は損害が実際に填補されるかという観点から極めてシビアな争点になります。いずれにしても、原則と異なる構成を採る場合については、より精密な主張立証が求められるということを示唆する判断といえます。

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