主婦(家事労働者)の逸失利益

主婦その他の家事労働者(以下、単に「家事労働者」)については、直接経済的活動をしているわけではないため、逸失利益算定の際の基礎収入をどのように考えるべきかという点について説明します。

結論からいえば、家事労働者についても逸失利益を認めるのが裁判実務です(保険会社も、逸失利益があること自体は認めてきます)。

これは、家事労働というものを家族等の関係性を除いて他人にやってもらおうと思った場合、通常はお金を支払ってやってもらうことになる点に経済的価値を見出すことができるためです。

したがって、家事労働といえど自分のための家事労働では経済的価値を生み出しているとはいえないため、逸失利益も認められないことになります。

自分のためだけではなく、他人のための家事労働をしているということが必要なのです。

では、家事労働者の家事労働につき、どの程度の収入があるものとして考えるべきでしょうか。

もちろん、家事労働者といえども家事労働の質や量は千差万別ですが、裁判所は、「女性全年齢全学歴の賃金センサス」を基礎収入として用いることが圧倒的に多いといえます。

賃金センサスというのは、厚生労働省が毎年調査している「賃金構造基本統計調査」のことをいいます。女性全年齢全学歴の賃金センサスは、年度によって増減ありますが、おおよそ350万円前後ですから、約350万円が逸失利益算定の基礎収入ということになります(算定の方法の詳細については、「逸失利益の算定方法」をご覧ください)。

ただし、家事労働の実態や被害者の年齢によっては、もう少し低い金額が基礎収入とされることもあります。

また、最近は仕事をしながら家事労働もこなす兼業主婦の方も増えています。兼業主婦の逸失利益については、仕事により得ている収入と賃金センサスを比較して、高い方を採用するのが裁判実務です。

いずれにしても、家事労働者は、他人のために家事労働をしていたこと及び事故による後遺障害によって家事労働に支障があることを立証できれば、一定程度の逸失利益が認定される傾向にあります。その意味で、個人事業主や会社役員と比べると家事労働者の逸失利益は立証しやすいのです。また、後遺障害が残っているけれども実際の減収がないサラリーマンと比べても、そもそも減収の有無が判断できないため、後遺障害によって家事労働に支障がありさえすれば、おおよそ後遺障害の程度に応じた逸失利益が認められますので、その意味でも立証しやすいといえます。

したがって、兼業主婦の方が仕事により賃金センサス以上の賃金を得ている場合でも、収入資料の有無や内容によっては、家事労働者としての逸失利益を請求していくことも、交渉戦略や裁判戦略としては十分検討に値するものといえます。また、逸失利益だけ比べれば賃金収入の方が高い場合でも、休業損害を含めた損害全体で考えると家事労働者としての請求を立てた方が有利になることもあるので注意が必要です。

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