赤信号無視自転車と衝突した自動二輪車に15%の過失を認め、鎖骨骨折14級9号認定に10年間労働能力喪失期間を認めた事例

東京地裁:平成25年1月28日判決(自保ジャーナル1900号76頁)

判決要旨

① 夜間、見通しの悪い片側1車線道路同士の信号交差点において、青信号に従い自動二輪車で直進中の原告と赤信号無視の直進被告自転車(マウンテンバイク)の衝突につき、「原告は、原告車両を運転して、本件交差点を直進通過するに当たり、左方の見通しが不良であったから、適宜速度を調節し交差道路の右方から本件交差点に進入してくる車両の有無及び動静を確認すべき義務があるのにこれを怠り、左方の確認不十分のまま漫然と本件交差点を直進通過しようとした結果、本件事故の発生を招いたと推認することができ、本件事故の発生につき相応の落ち度があるというべきであるところ、その過失割合は、対面信号の表示状況など前示した本件事故の態様、被告の過失の程度等を考慮すると、15%が相当である」と過失相殺を適用した。

② 左鎖骨骨折から14級9号認定を受ける後遺障害逸失利益算定につき、原告は、「本件事故の当時、大学3年生(24歳)であったところ、症状固定時(25歳)に残存する本件事故による後遺障害の結果、10年間にわたり労働能力を5%喪失したということができるから、本件事故と相当因果関係のある逸失利益は、平成22年賃金センサスによる男子労働者大卒年齢別平均賃金を基礎」収入として認定した。

コメント

①について、青信号に従い交差点を直進する自動二輪に対し、赤信号無視で直進してきた自転車と衝突したことに対して「相応の落ち度」があるとされた点は、素朴な感覚からいっても弁護士的感覚からいっても、大きな違和感があります。

たしかに、赤信号を無視したのは自転車であり、青信号を進行していたのが自動二輪であることからすれば、赤信号を無視した側は交通弱者ということができそうです。しかし、自転車は、道交法上の軽車両として分類されており(道交法2条1項11号)、歩行者とは区別されるべきものです。
裁判所は、「左方の見通しが不良であったから、」という一言の理由づけで、「適宜速度を調節し交差道路の右方から本件交差点に進入してくる車両の有無及び動静を確認すべき義務がある」との認定を導いていますが、たとえ見通しの悪い交差点であっても信号が青なのであれば、「赤信号を無視して進行してくる車はいないはずだ」という最も基本的な交通ルールを信頼するのが通常であり、そのような場合にまで「速度を調節」してまで左右からの交差点進入車がいないかを確認する義務があるというのは無理があるように思います。

②については、鎖骨骨折後の神経症状について14級9号の後遺症を残した場合の逸失利益の計算において、労働能力喪失期間を10年に制限しています。
通常、労働能力喪失期間は、症状固定時から67歳まで認められることが多いのですが、特に神経症状の場合には加害者(保険会社)側から、「神経症状は馴化(じゅんか)していくものであるから労働能力喪失期間は制限されるべき」との主張がされることがあります。
実際、少なくとも、いわゆるむち打ち症の場合には、14級9号であれば5年程度、12級13号であっても10年程度に労働能力喪失期間が制限されることが実務の趨勢です。
また、むち打ち症ではないその他の神経症状についても残念ながら一定程度の制限が加えられることが多いように思います。
しかし、被害者側弁護士としては、少なくともむち打ち症以外の神経症状について「原則として67歳まで」という方針を崩さず、その主張を支えるだけの立証をするべきです。本件において14級9号の認定で10年間という喪失期間については、ある程度そのような主張立証が奏功したものと評価できると考えます。この裁判の原告代理人弁護士は、原告の鎖骨骨折後の後遺障害は実質13級相当であると主張し、労働能力喪失率を13級前提の9%、労働能力喪失期間を67歳まで主張したようです。その主張自体は正面からは認められていないわけですが、14級といってもその症状は様々であり、一律に14級の認定であれば5%といった処理をしていくことは形式的にすぎるという意味では、この原告代理人の主張はありうる主張であると思います。

なお、裁判所が、基礎収入について賃金センサスの「年齢別」を用いたことは、労働能力喪失期間を10年に制限する以上は理論上妥当です(67歳までとみる場合には「年齢別」ではなく「全年齢」のセンサスを採るべきです。通常、一定の年齢までは年齢に比例して収入は上がっていくためです。)。

また、本筋とは異なりますが、本件では物損も請求されていますが、原告自動二輪車の修理費用以外の損害(ヘルメット、ミラーシールド、上着、グローブ、ズボン、靴等)はことごとく「証拠に欠ける」とされ0円と認定されています。被害者側が損害を立証できないと0円と認定することはやむを得ない部分なのですが、被害者側にとってはこの「立証の壁」が大きく立ちはだかることがあります。今回は物損についてでしたので、金額としてもそう大きくはないものの、これが医学的な証明などのレベルになってくると、「証拠に欠ける」として0円認定されてしまうことによる被害者側の損失は莫大となります。

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