会社役員の逸失利益

会社役員については、逸失利益が否定されたり、制限的に理解されることが一般的です。
これは、役員報酬というものが必ずしも労務の対価のみで構成されるものでなく、利益配当の部分を有しているのが通常であるからです。
もう少し補足しますと、仮に後遺障害が残存することになったとしても、利益配当の部分については減収ということが考えられないため、少なくともその部分については逸失利益は存在しないという理解に基づきます。

ただし、圧倒的に中小企業の多い日本において、役員である=利益配当部分がある、と考えることは妥当ではありません。
実際には、個人事業と変わらない規模の会社なども多数あり、会社役員といっても身を粉にして働いている方も大勢います(むしろそういう方の方が多いでしょう)。
そうすると、役員報酬であっても実質的には労務対価性を有する部分がほとんどであるということもあります。

そもそも、労務対価部分と利益配当部分について明確に区分することは容易ではありません。
実際の示談や裁判の場では、役員である被害者の実際の労務状況、会社の規模、売上の変動、報酬の減額の有無、賃金センサスとの比較等について丁寧な主張立証をすることが必要になります。
実際の示談や裁判では、役員報酬のうち何割を労務対価部分と認める、という形で逸失利益算定の基礎収入を決めることが多いといえます(逸失利益の算定方法について、詳細は「逸失利益の算定方法」をご覧ください)。

また、死亡の逸失利益の場合、死亡すると利益配当部分も受けられなくなることから、この点についての逸失利益を認めてもよさそうですが、裁判実務はこのような考え方には消極です。
死亡の場合でも、役員報酬を労務対価部分と利益配当部分に分けて利益配当部分については逸失利益性を否定されます。
これは、裁判所が、逸失利益について、差額説を採りながらも労働能力喪失説的な考え方をかなり強く取り込んでいることの表れといえます(差額説・労働能力喪失説については「逸失利益とは」をご覧ください)。

したがって、死亡の場合であっても、労務対価部分があることの立証は不可欠です。

なお、実際の役員報酬よりも基礎収入を高く認めた例もあります(金沢池判平16.10.29)。
この裁判例では、被害者の実際の役員報酬が会社への貢献度を度外視して低く設定され、他の役員とされている被害者の家族の報酬は実質的には被害者が得るべき報酬とみられること等を考慮して、賃金センサスを基礎収入とすると認定されました。
かなりのレアケースであると思いますが、実態を正確に損害賠償に反映するための被害者遺族と代理人弁護士の丁寧な主張立証が奏功したものとして非常に価値がある裁判例であると考えます。

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