逸失利益の算定方法

逸失利益の額は、どのように算定されているのでしょうか。

「逸失利益とは」で詳しく説明していますが、逸失利益については差額説を基本にしつつ労働能力喪失説的な色合いを持って判断されているのが裁判実務といえます。

具体的には、

①基礎収入×②労働能力喪失率×③労働能力喪失期間(×④生活費控除率(死亡の場合))

によって逸失利益の額は算定されています。①~④を1つ1つみていきましょう。

①基礎収入

基礎収入として用いられる収入は、原則として事故前年のものとなります。

ただし、事故前年は失職期間がある等の特別な事情が認められる場合には、事故時の収入状況や、事故から遡って数年間の平均収入、これまでの就業状況等の種々の要素を考慮して、基礎収入が判断されます。

被害者が会社員の場合には、源泉領収票や課税証明書を用いて、比較的収入の立証が容易です。しかし、被害者が個人事業主や会社役員である場合には、丁寧な立証が必要になります(詳しくは「個人事業主の逸失利益」、「会社役員の逸失利益」をご覧ください。)。

また、主婦等の他人のための家事労働者については、女性の全年齢全学歴賃金センサス(年度により異なりますが、約350万円)を基礎収入にすることがほとんどです(詳しくは、「主婦(家事労働者)の逸失利益」をご覧ください。)。

学生を含む若年者(おおよそ30歳未満)については、学歴別又は全学歴の賃金センサスを用いることが多いでしょう。

なお、基礎収入はずっと一定とは限らず、たとえば定年までは事故前収入を基礎収入とし、定年後はもっと低い金額を基礎収入とするというように認定されることがあります。

②労働能力喪失率

労働能力喪失率というのは、事故により残ってしまった後遺障害が、仕事をする能力に加える制限の割合をいいます。

通常は、自賠責後遺障害等級表に定められる等級に応じた労働能力喪失率がそのまま適用されますが、実際の後遺障害の内容、就業状況への影響等を勘案し、増減されることもあります。

等級に応じた労働能力喪失率については、「自賠責後遺障害別等級表・労働能力喪失率」をご覧ください。

また、労働能力喪失率について、最初の何年は20%、残りの何年は14%、というように逓減方式が採用されることもあります。

③労働能力喪失期間

現在の裁判実務では、労働能力喪失期間は、67歳までが原則とされます。ただし、67歳を超えて働いている人が後遺障害を残したような場合に労働能力喪失期間が認められず逸失利益が否定されるのはあまりにも不合理ですから、症状固定時(又は死亡時)の平均寿命の半分の期間を算定し、それが67歳を超える場合にはそちらを労働能力喪失期間とします。

もっとも、現実の就業状況や後遺障害の状況等に応じて、労働能力喪失期間が上記以下に制限されることもありえます(逆に長くなるということはあまりないです)。

たとえば、後遺障害が神経症状の場合(特に頸椎捻挫や腰椎捻挫のむち打ち症の場合)、労働能力喪失期間は、かなり制限的に認定されます。具体的には、自賠責後遺障害等級14級9号の神経症状であれば3~5年、12級13号の神経症状であれば5~10年に制限されることが多いです(14級9号と12級13号の判断基準については「むち打ち14級と12級の分水嶺」をご覧ください。)。

なお、労働能力喪失期間については、たとえば20年という認定でも単純に20を掛けるわけではなく、中間利息を控除する方式が取られます(詳しくは「中間利息の控除(ライプニッツ係数とホフマン係数)」をご覧ください。)。

中間利息を控除するために通常用いられている係数をライプニッツ係数といい、たとえば法定利率(=年5%)を前提とする20年のライプニッツ係数は12.4622です。

④生活費控除率

生活費控除率とは、死亡事故の場合の逸失利益算定において用いられる概念です。

死亡した場合、死亡後の生活費がかからないことから、その部分は賠償額から除きましょうという意味です。この生活費控除という考え方により、死亡事案より重症事案(存命しているため生活費控除なし)の方が逸失利益が高く算定されることがありえます。

一般的な感覚からすると違和感を持つ方もいるかもしれませんが、論理的には認めざるを得ない概念であり、実務としても死亡事案で生活費を控除することは当然の前提とされています。

生活費控除率は、通常は、次の基準を参考として判断されます。もちろん、この基準が絶対ではく、事案に応じた立証が必要になります。

  1. 一家の支柱

①被扶養者1人の場合・・・・・・・40%

②被扶養者2人以上の場合・・・・・30%

2. 女性・・・・・・・・・・・・・30%

3. 男性・・・・・・・・・・・・・50%

ただし、年金部分の生活費控除率については通常より高く認定する例が多いといえます。

なお、生活費と同様に、死亡によって支払いを免れる性質のものとして税金がありますが、税金については逸失利益の算定において控除すべきでないというのが裁判実務です(東京地判平成7.5.14)。もっとも、税額は高所得者ほど高い傾向にあることを踏まえ、生活費控除率を判断する1つの指標にはなりえます。

 

このように、逸失利益の算定は、ある程度の計算式を用いて定例化されているものの、やはり具体的事情を適切に主張立証できるかが重要です。

 

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