関節可動域の測定方法

 間接の機能障害の具体的評価方法として、関節の測定方法に関し労災は次のように定めています。

1 労災保険における関節可動域の測定
(1) 関節の機能障害は、関節そのものの器質的損傷によるほか、各種の原因で起こり得るから、その原因を無視して機械的に角度を測定しても、労働能力の低下の程度を判定する資料とすることはできません。
 したがって、測定を行う前にその障害の原因を明らかにしておく必要があります。関節角度の制限の原因を大別すれば、器質的変化によるものと機能的変化によるものとに区分することができます。さらに、器質的変化によるもののうちには、関節それ自体の破壊や強直によるもののほかに、関節外の軟部組織の変化によるもの(例えば、阻血性拘縮)があり、また、機能的変化によるものには、神経麻痺、疼痛、緊張によるもの等があるので、特に機能的変化によるものの場合には、その原因を調べ、症状に応じて測定方法等に、後述するとおり、考慮を払わなければなりません。
 関節可動域の測定値については、日本整形外科学会及び日本リハビリテーション医学会により決定された「関節可動域表示ならびに測定法」に従い、原則として、他動運動による測定値によることとしますが、他動運動による測定値を採用することが適切でないものについては、自動運動による測定値を参考として、障害の認定を行う必要があります。
他動運動による測定値を採用することが適切でないものとは、例えば、末梢神経損傷を原因として関節を可動させる筋が弛緩性の麻痺となり、他動では関節が可動しますが、自動では可動できない場合、関節を可動させるとがまんできない程度の痛みが生じるために自動では可動できないと医学的に判断される場合等をいいます。
 また、関節が1方向には自動できるが逆方向には自動できない場合の可動域については、基本肢位から自動できない場合は0度とします。
[例 手関節を基本肢位から自動で90度屈曲することができるが、橈骨神経損傷により自動では伸展が全くできない場合、健側の可動域が屈曲・伸展を合計して160度のときは、患側の可動域は、健側の3/4以下に制限されていることとなり、「関節の機能障害」に該当します。]

(2) 被測定者の姿勢と肢位によって、各関節の運動範囲は著しく変化します。特に関節自体に器質的変化のない場合にはこの傾向が著しい。例えば、前述した阻血性拘縮では手関節を背屈すると各指の屈曲が起こり、掌屈すると各指の伸展が起こります。
また、肘関節では、その伸展筋が麻痺していても、下垂位では、自然に伸展します。
そこで、各論において述べる基本的な測定姿勢のほか、それぞれの事情に応じ、体位を変えて測定した値をも考慮して運動制限の範囲を判定しなければなりません。
(3) 人の動作は、一関節の単独運動のみで行われることは極めてまれであって、一つの動作には、数多くの関節の運動が加わるのが普通です。したがって、関節の角度を推定する場合にも、例えば、せき柱の運動には股関節の運動が、前腕の内旋又は外旋運動には、肩関節の運動が入りやすいこと等に注意しなければなりません。しかし、他面、かかる各関節の共働運動は無意識のうちに起こるものであるから注意深く監察すれば、心因性の運動制限を診断し、又は詐病を鑑別するに際して役立つことがあります。なお、障害補償の対象となる症状には心因性の要素が伴われがちですが、これが過度にわたる場合は当然排除しなければなりません。その方法としては、前述の各関節の共働運動を利用して、被測定者の注意をり患関節外させて推定する方法のほかに、筋電図等電気生理学的診断、精神・神経科診断等が有効です。

2 関節可動域表示並びに測定法の原則
(1) 基本肢位
 概ね自然立位での解剖学的肢位の基本肢位とし、その各関節の角度を0度とします。
 ただし、肩関節の外旋・内旋については肩関節外転0度で肘関節90度屈曲位、前腕の回外・回内については手掌面が矢状面にある肢位、股関節外旋・内旋については股関節屈曲90度で膝関節屈曲90度の肢位をそれぞれ基本肢位とします。

(2) 関節の運動
ア 関節の運動は直交する3平面、すなわち前額面、矢状面、水平面を基本とする運動です。ただし、肩関節の外旋・内旋、頸部と胸腰部の回旋は、基本肢位の軸を中心とした回旋運動です。また、母指の対立は、複合した運動です。
イ 関節可動域測定とその表示で使用する関節運動とその名称を以下に示します。
 なお、下記の基本的名称以外によく用いられている用語があれば( )に表記します。
(ア) 屈曲と屈伸
 多くは失状面の運動で、基本肢位にある隣接する2つの部位が近づく動きが屈曲、遠ざかる動きが伸展です。ただし、肩関節、頸部・体幹に関しては、前方への動きが屈曲、後方への動きが伸展です。また、手関節、手指、足関節、足指に関しては、手掌または足底への動きが屈曲、手背または足背への動きが伸展です。
(イ) 外転と内転
 多くは前額面の運動で、体幹や手指の軸から遠ざかる動きが外転、近づく動きが内転です。
(ウ) 外旋と内旋
 肩関節及び股関節に関しては、上腕軸または大腿軸を中心として外方へ回旋する動きが外旋、内方へ回旋する動きが内旋です。
(エ) 回外と回内
 前腕に関しては、前腕軸を中心にして外方に回旋する動き(手掌が上を向く動き)が回外、内方に回旋する動き(手掌が下を向く動き)が回内です。
(オ) 右側屈・左側屈
 頸部、体幹の前額面の運動で、右方向への動きが右側屈、左方向への動きが左側屈です。
(カ) 右回旋と左回旋
 頸部と胸腰部に関しては、右方に回旋する動きが右回旋、左方に回旋する動きが左回旋です。
(キ) 橈屈と尺屈
 手関節の手掌面の運動で、橈側への動きが橈屈、尺側への動きが尺屈です。
(ク) 母指の橈屈外転と尺側内転
 母指の手掌面の運動で、母指の基本軸から遠ざかる動き(橈側への動き)が橈側外転、母指の基本軸に近づく動き(尺側への動き)が尺側内転です。
(ケ) 掌側外転と掌側内転
 母指の手掌面に垂直な平面の運動で、母指の基本軸から遠ざかる動き(手掌方向への動き)が手掌外転、基本軸に近づく動き(背側方向への動き)が掌側内転です。
(コ) 中指の橈側外転と尺側外転
 中指の手掌面の運動で、中指の基本軸から橈側へ遠ざかる動きが橈側外転、尺側へ遠ざかる動きが尺側外転です。

(3) 関節可動域の測定方法
ア 関節可動域は、他動運動でも自動運動でも測定できますが、原則として他動運動による測定値を表記します。自動運動による測定値を用いる場合は、その旨明記します〔(4)のイの(ア)参照〕。
イ 角度計は、十分な長さの柄がついているものを使用し、通常は、5度刻みで測定します。
ウ 基本軸、移動軸は、四肢や体幹において外見上分かりやすい部位を選んで選定されており、運動学上のものとは必ずしも一致しません。また、手指および足指では角度計のあてやすさを考慮して、原則として背側に角度計をあてます。
エ 基本軸と移動軸の交点を角度計の中心にあわせます。また、関節の運動に応じて、角度計の中心を移動させてもよいです。必要に応じて移動軸を平行移動させてもよいです。
オ 多関節筋が関与する場合、原則としてその影響を除いた肢位で測定します。例えば、股関節屈曲の測定では、ひざ関節を屈曲しひざ屈筋群をゆるめた肢位で行います。
カ 肢位は「測定肢位および注意点」の記載に従いますが、記載のない者は肢位を限定しません。変形、拘縮などで所定の肢位がとれない場合は、測定肢位が分かれるように明記すれば異なる肢位を用いてもよいです〔(4)のイの(イ)参照〕。
キ 筋や腱の短縮を評価する目的で多筋を緊張させた肢位で関節可動域を測定する場合は、測定方法が分かるように明記すれば、多関節筋を緊張させた肢位を用いてもよいです〔(4)のイの(ウ)参照〕。

(4) 測定値の表示
ア 関節可動域の測定値は、基本肢位を0度として表示します。例えば、股関節の可動域が屈曲位20度から70度であるならば、この表現は以下の2通りとなります。
(ア) 股関節の関節可動域は屈曲20度から70度(または屈曲20度〜70度)
(イ) 股関節の関節可動域は屈曲は70度、伸展は—20度
イ 関節可動域の測定に際し、症例によって異なる測定法を用いる場合や、その他関節可動域に影響を与える特記すべき事項がある場合は、測定値とともにその旨併記します。
(ア) 自動運動を用いて測定する場合は、その測定値を( )で囲んで表示するか、「自動」または「active」などと明記します。
(イ) 異なる肢位を用いて測定する場合は、「背臥位」「座位」などと具体的に肢位を明記します。
(ウ) 多関節筋を緊張させた肢位を用いて測定する場合は、その測定値を< >で囲んで表示しますが、「ひざ伸展位」などと具体的に明記します。
(エ) 疼痛などが測定値に影響を与える場合は、「痛み」「pain」などと明記します。

(5) その他留意すべき事項
ア 測定しようとする関節は十分露出します。特に女性の場合には、個室、更衣室の用意が必要です。
イ 被測定者にも精神的にも落ちつかせる必要があり、測定の趣旨をよく説明するとともに、気楽な姿勢をとらせてください。

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